[POD] 鏡 の 向 こ う の わ た し へ

[POD] 鏡 の 向 こ う の わ た し へ

$18.90
SKU: 9791141928933
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Description
世界はひび割れていった。
 方程式は、崩れかけた地層の呼吸に触れるには、あまりに乾いていた。
 水も、光も、影さえも、そこに留まってはくれなかった。
 数式の中で私は重さを測り、流れを計算し、抵抗を求めた。
 だが、本当に知りたかったものは、こぼれ落ちるばかりだった。

 韓国での日々、コンクリートの曲線と、夜明け前の静けさのなかで、数値は記憶のように変質していった。
 地面が音もなく崩れてゆくとき、私もまた、かたちを失っていた。
 すでに誰かが書き終えた物語の中に、自分が生きていたような気がしていた。

 あるときから、私は見る者になった。
 触れられず、語れず、ただ、そこに微かなぬくもりだけが残っていた。

 母は、私のノートを開く。
 灰を払うように、そっと。
 書きはじめる。
 文字で私を繋ぎとめようとするように。
 私は、その言葉の中で生き続けている。

 彼——私を愛した人——は、川へ通う。
 黙って座り、かつて吸わなかった煙草をくゆらせ、誰も知らない言葉を呟く。
 私には、聴こえている。

 物理が教えてくれた。
 落ちるものは、すでに落ちているということ。
 偶然とは、見えない軌道の名にすぎないこと。
 そして、わたしという名の下にあったものは、誰の心にもきちんと残らない、曇った窓の外の景色のようだった。

 名前を忘れてしまう日が来ても、内側から音が消えてしまっても、それは、鏡の向こうへゆく途中かもしれない。
 怖がらなくていい。
 それは、とても自然なことだから。
저자

최영환

気づけば、なにかを成し遂げるよりも、
成し遂げなかったことに思いを巡らせる日々が増えていました。
会社をやめて、なにも重要じゃないことに情熱を注ぐ――
そんな才能を、三十代でようやく開花させました。

特技は、考えすぎること。
得意技は、だらだら過ごすこと。
今の肩書きは、「なんとなく生きてる人」です。

この本は、忘れられていくことと、名前のつかない感情について、
ただ静かに、でも少し可笑しく書いてみたかった記録です。

よかったら、ほんの少しだけでも、あなたの記憶の片隅に残ってくれたら嬉しいです。

목차

まだ名前のない扉たち

まえがき 小さな悪魔が胸にすんでいる..........................4

北の光を忘れた日.......................................................21
知らない目に映ったわたし...........................................40
結ばれなかった約束と、恋のかたち.......................85
進化ではなく、ひび割れだった.................................153
家という名の、ゆがんだ箱.........................................185
わたしがわたしでいられない時.................................213
山の上の寺で見た、止まった時間...........................241
鏡の中で、生まれつづけるわたし.............................262

あとがき すべては、もう決まっていた..........................287